浦沢直樹/MONSTER

はじめに

浦沢直樹の作品は、「MASTERキートン」、「YAWARA!」をはじめ、「パイナップルARMY」などなど好きな作品が多いのですが、レビューしにくそうという個人的判断により敬遠していました。
ですが、今回改めて「MONSTER」を読んでみて「あぁ、やっぱり面白いなぁ。」ということで、頑張ってレビューしてみようかと。
拙い文章ですが、お付き合いください。

基本事項

ストーリー

1986年、西ドイツ(当時)・デュッセルドルフのアイスラー記念病院に、頭部を銃で撃たれた重傷の少年ヨハンが搬送されてくる。天才的な技術を持つ日本人脳外科医・ Dr.テンマは、院長の命令を無視してオペを担当し、ヨハンの命を救う。院内の政治力学によって、テンマの順風な状況は一変。医師として自分は正しかったと信じるテンマだが、苛立ちを隠せない。そんな中、院長、外科部長らの殺害事件が発生。同時に入院中だったヨハンが失踪する。
1995年、テンマの前に現れたヨハンは、美しい青年に成長していた。テンマの患者ユンケルスを目の前で何の躊躇もなく射殺し、過去の殺人を告白するヨハン。自らの責任を感じたテンマは、怪物ヨハンを追跡する。(Wikipediaより)

レビュー

今まで、私がレビューを書いてきた漫画では最も長い巻数ですね。
MONSTERに関する、様々な評価やレビューを読んでいると、「無駄に長いのではないか」「もっと短くまとめられる」というコメントを多く目にしました。
しかし、私はMONSTERに関して、この長めのストーリーは決して無駄ではなく、むしろ面白さを引き立てたのではないかな、と思ってます。
確かに、全巻読み終わった後に「まとめようと思えば、まとめれるな。」とは感じましたが、一見するとストーリーにはあんまり関与していないような話でもMONSTERの面白さを引き立てる要因になっているのでは、と思いました。



(1巻より)
話としては、主人公であるDr.テンマがこの少年の命を救ってしまうことからはじまります。
その後の流れは先ほどの、ストーリーの項でも触れていますが、この手術が院長の意向に反したものだったためにいままで積み上げてきたものが一気に崩れ去ります。
やはり、このような医者に関連する漫画*1はどれもそうですが、医者の世界もサラリーマンと同じような感じなのかなぁという印象を受けます。
手術が上手いだけでは出世はできず、上手く立ち回ったもの、強い側についたもの、世渡りが上手い人が出世をする・・・。
そういった、医者の世界のドロドロした部分。命を救うことが目的にもかかわらず、そういった社会的権力が影響を及ぼす医者の世界。
医療がメインの漫画ではありませんが、そのようなことを感じる部分もあったということです。


「登場人物が多すぎる」という感想もWebで良く見かけます。
私も登場人物が多いというその事実に関しては認めざるをえません。
確かに、登場人物が多いことで物語の軽快さは失われているかもしれません。それゆえの18巻でしょうし。
しかし、私としては別に、この物語に軽快なテンポは必要ないように思えます。
ミステリーなんだし、回り道したっていいんじゃないかなぁ、と。





(上から、5巻、10巻、14巻)
数多くの登場人物の中でも、主要な3人をピックアップ。

  • Dr.テンマを犯人と考え、追跡するなかで真実にたどり着くルンゲ警部。
  • ヨハンと同じく、物語のキーワードともなる「511キンダーハイム」出身のグリマーさん。
  • MONSTER、つまりは「怪物」であるヨハンを兄に持つ、双子の妹アンナリーベルト。

グリマーさんに関しては、10巻あたりからの登場なわけですが、最終章でも活躍するキャラなので選びました。


他にも、多くのキャラクターが登場します。
テンマの昔の同級生だったり、他の「511キンダーハイム」出身者だったり、テンマに銃の扱い方を教えた人だったりと、それはもう本当に多いです。
全員が全員、最後まで登場し続けるわけではないので、確かに「無くても良くないか?」といった話がでてくるのも納得はできます。
ですが、私としてはなくても良いが、あったほうがいいという感じがします。
「医者であるテンマが、銃の撃ち方を習う話」なんて、まぁ無くてもいいかもしれません。
この漫画の目的は「"怪物"であるヨハンをDr.テンマが抹殺すること」ですからね。
極論すれば、テンマが重火器の扱いを習おうが知ったこっちゃないです。
ただ、この回のお話は、テンマ側に大きな変化があるというよりかは、銃の扱いを教えたインストラクター側の心境に変化があるんですね。
主人公が受けた影響ではなく、主人公が与えた影響が分かるお話なんです。


テンマが、化物を蘇らせました、殺戮を繰り広げています。「これは、いかん!止めなくては!」ってことで、テンマが抹殺するべく追跡する。
これだと、ちょっと単調になるのではないかな、と。
別に、テンマが元々どこかの暗殺者とかで、アクション物の漫画を描くというのなら問題は無いと思います。
でも、元々の職業は医者。
人の命を救う立場。そんな人間がある人間を殺すことを誓う。命を救うはずの自分の手で化物を生み出してしまったから・・・。
そんな立場の人間のお話、だからこそ、他の人間との関わり合いを描いたのかなと思うのです。
たとえ、それがストーリーのメインテーマから外れるとしてもね。
だから、そう、話数は多くなってしまった作品なんだけれど、私は魅力を感じました。


また、登場人物が多いことによる面白みというのも少なからず感じました。
主にメインとなるキャラクターは先ほど紹介した通りです。
そのそれぞれが異なった(若干似てるときもあるけれど)ルート、推測、事件を通して、最終的に一つの目的地に集うというところが面白いな、と。
仲間とともに、一つの場所を目指すのではなく、一つの場所を個々が目指す。
数学の解法がたくさんあるのと同じです。
例えが悪い?すみません、言ってみただけです(;´Д`)


そのめまぐるしく変わる、多人数の視点で物語が展開されていくというのに面白みを感じました。
逆に、その視点が定まってないというのがつまらなく感じる人の理由にもなる。
その登場人物の多さ、視点の変動に面白みを見出すと、作品の感じ方が変わってくるように思います。




(最終巻18巻より。)
様々な、事件・出来事・調査・推理を経て、同じ場所に集うシーン。
ここからが、クライマックス。



(最終巻18巻より。)
ついに出会った二人・・・。


サスペンス・ミステリー物ということで、読んでいて推理するかというと・・・あまりそういう意識はなかったかなぁと思います。
それよりも、人間にとっての生や死の平等とか、人を殺めることの重み、殺す決意をするまでの葛藤。
なんかそういう哲学的というか倫理的な何かを考えさせられたかなぁ、と。
抽象的で申し訳ないです。


いままでレビューを書いてきた漫画とは、大きく違うジャンルで、狙っている読者層も大人の方を意識して描いた物でしょうね。
推理チックなサスペンスではなく、どちらかというとハラハラさせられるような、それがまた練り込まれたストーリーによって、いい具合に調和している作品です。
個人的に浦沢直樹の作品では「MASTERキートン」がイチオシなんですが、「MONSTER」のほうが普通に薦める分にはいいのかな、なんてこのレビューを書いている間に思いました。
では、この辺で筆(?)を置きます。

後記

久しぶりの漫画レビューとなりました。
やっぱり、言葉で自分が感じたこと・思ったこと・考えたことを伝えるのって難しいですね。
より質の高い記事を目指して頑張ります。